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2018-08-25 〜 2018-09-09

プールの輪にワニ

小林 椋

8月25日 sat 19:00- ギャラリートーク

物理学者のジョージ・ダーウィンは一ヶ月の間、毎朝チューリップに向けてトランペットを吹くという全く常軌を逸したような実験を、時々でよいが欠かさず行うべきであると言うのを常とした。実際にチューリップに向けてトランペットを吹き続けても、何も起こらないだろう。これは、私たちにとっての慣習や既知な事象から切り離して、世界から「新しい」ことを引き出すための一つの方法である。もし何か起こるようなことがあれば、ただ事ではないのだから。 「電子は原子核の周りを回っている」と理科の授業で教わった人は多いかもしれない。一方で、原子核の周りを回る電子というのは「モデル」であって、原子や電子そのものの現れを指し示していない。「モデル」は現実のモノを指すものではなく、現実と”ある点でよく似ている”構造を持つ。実際には、波のようなモデルがより正確なものとして考えられるが、単純な問題であれば「回っている」というモデルでも十分に有効であったりもする。どちらにせよ、科学モデルを現実世界のありさまとして文字どおりに捉えること、それは誤りなのだ。「モデル」は理想化や抽象化といった手続きを経て、虚構の中でこそ作用する。 科学は合理的に現実世界のありさまを明らかにしていくように思える。それでも、現実離れした突飛な想像力や虚構世界とも切り離すことはできない。だから科学は信頼できないということではなく、現実をフィクション的なるものによって駆動させる一つの例としてみてみるということ。科学という営みを起点として、その現実的な作用におけるフィクション性について考えるための装置。

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